Panasonic in Brera: Electronics Meets crafts ~ 伝えること ~

4月1日土曜日、朝早くBrera 美術館前で集合すると、知っている顔がいくつもあった。昔からの友人、ミラノ万博で一緒に働いた人たちなど、 懐かしさのあまり胸が熱くなった。

だがその場の空気はピリッと張りつめている。26名が、フオーリサローネ出展企業 Panasonic のスタッフとして呼ばれたのであった。(フオーリサローネ=「サローネの外」の意。ミラノサローネの時期にミラノ市内で個々に行われる展示で、ブレラ地区にはそれが集中している)。

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全員が集まると、“会議室”に案内された。それはブレラのアカデミアの地下室にあり、薄暗い、まるでワイン蔵のような所の、更に奥にあった。開幕に向けて既に形のほぼできあがったインスタレーションに目を向けることもできず、誘導されるままに秘密基地みたいな空間にたどり着いた。すぐに今回のインスタレーションのコンセプトについての説明が始まった。題名は「Electronics Meets Crafts」。「電化製品が伝統工芸と融合する」という意味で、三つものホールを使って作られているという。

第一ホールはブレラ美術アカデミーの校庭に即席で建設された建物。ここでは大迫力の大スクリーンが鑑賞できるようになっている。

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次に観客は第2ホールの地下へと案内される。そこは、Panasonicの工業デザイナー達と、京都の「GO ON」(ゴオン)という工芸家グループによって作り出された異次元空間だ。

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誘導されて暗闇のなか待っていると、太鼓の音と共にトンネルの奥から光が流れてくる。別世界に迷い込んでしまったかのような印象を与えることが、狙いだ。地下が持つ独特の雰囲気が活かされるように計算されていた。第3会場は第1会場と同じく地上にあり、こちらはブレラの美大生とのコラボのスペースとなっていた。

これだけ大規模なインスタレーションなら、人が殺到するに違いない。この世界観を保たねばならない。緊張感は高まるばかりである。私たちの役割は、受付、観客の誘導、説明で、各グループに分かれての訓練が始まった。私は説明チームに配属されたので、紹介する作品の特徴やメンテナンスの仕方などの説明を頭に叩き込んだ。叩き込むのはいいにしても、相手によって言語を変えて説明するよう指示され、それは体力的にも精神的にも消耗の激しい、大変な仕事だった。

Panasonicのインスタレーションへの入場を待つ人たち。

私は自分の語学能力と真剣勝負で向き合わなければならなかった。人が人に何かを伝えることの大切さを知った。人は誰でも自分を理解してもらいたい、そして人を理解したい。その為に一番大切なのはやはり、伝え方を磨くことだ。私は相手によって説明の仕方を工夫した。英語を解さないスペイン人に、スペイン語にもありそうなイタリア語の単語を並べて話したり、耳が不自由な人がいる時には、付き添いの人に手話で説明を伝えてもらうために、ゆっくり話した。

 私は、自分の「伝える力」の未熟さを知った。そして、日本人に日本語で作品の説明をすることに困難を感じ、ひどく緊張してしまっていることに気がついた。イタリア生まれでも日頃、日本語が一番得意なつもりでいたのに…。英語はもっともっと勉強する必要があると痛感した。イタリア語に関しては、声が枯れるほどに口が達者になってしまっていることを知った。

わお、MIKAだ!

疲労のたまる日々であったが、一人一人の仲間のキレる頭に何度も衝撃を受けた。人種もタイプも年齢もまるでばらばらの個性の強い(強すぎる)メンバーだったが、素晴らしいチームワークを築くことができたと思う。

GO ON」の工芸家とPanasonicの工業デザイナーが我々に伝えたかったのは、「人の知恵と先進技術が見事に交差した時、素晴らしいものを生み出す。だから伝統工芸は未来に繋げ、伝えることができる」ということだ。今回のミラノサローネで彼らに与えられた「ベスト・ストーリー・テリング」賞は、そのメッセージが人々に届いたことの証なのだと思った。

※クリエイティブユニット「GO ON」: http://goon-project.com

文:Natsu Funabashi

写真提供:Panasonic, GO ON, Link Japan

 

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